遠い山に雪

生活における瑣末なことあれこれを書きます

【眠りエッセイ】忘れられない景色がある

忘れられない景色がある。

何かの店舗だったのか駐車場だったのか、それすらもわからない寂れた廃ビルの、どこかの階で、窓も何もなくなったビルの内側から見た外の景色。それはそれは青い木々が生命力を漲らせながら茂っていて、新緑とはこういうことを言うのだな、と思ったことを覚えている。ビルの外側には木々しか見えなくて、どこかの山の中なのかもしれない。どうやってここに来たのかさえ覚えていないが、きらきらと光っている緑色が目一杯に飛び込んできて、ただただ綺麗だった。

これは私の夢の記憶だ。もう10年は前の夢だが、あの青々とした木々のきらめきが忘れられなくて今でもたまに思い出す。人生であれよりも綺麗な緑を見たことがない。そりゃあ夢なのだから自分の思う最上級の景色を見せることができるのだろうが、それでもあの緑は本当に綺麗で、新緑とは、と何度思い出してもそう思う。いつかリアルの生活の中でもあれくらい綺麗な緑を見てみたい。そうすれば、あの日の夢から解放されるような気がして。

他にもある。

私はどこかの町をぶらぶらと歩いている。山々の谷の部分にある川のほとりにできた町で、ゆるやかなカーブを描いて続いていく幹線道路の上空には、同じくカーブを描いている、レールから列車が吊り下がるタイプのモノレールが敷かれている。左手はなだらかな坂になっていて、古い商店街が細く続いている。小さな祠がある空き地や銭湯があって、昔ながらの町という感じだ。

私はこの町を夢の中でしか知らない。あまりにも鮮明に覚えているので以前旅行かなにかで通ったことがある町なのかと思い、地図を描きながら親に聞いてみたが、そんな町は知らないと言われた。山間の小さな町なのにモノレールが敷いてあるのが印象的で、確かに調べてみてもそのような町は見つからなかった。幹線道路がどこに続いているのか、日本であることだけはわかるけれど、どの地域なのかもわからない。私は大阪のニュータウンで生まれ育ったのでそのような、いわゆる田舎と呼ばれるような町並みには馴染みがないはずなのだが、思い出すたびにどうしてかひどく懐かしく感じる。

あの町はどこなのだろう。この世界にもあの町はあるのだろうか。この夢からも、いつかは解放されるのだろうか。

リアルで旅行にいった先よりも鮮明に覚えているその町は、いまも夢の世界で日々を営んでいるのだろうか。