遠い山に雪

生活における瑣末なことあれこれを書きます

「絶対アイドル辞めないで」は呪いであり、祈りであり。

話題になっている『絶対アイドル辞めないで』のMVを見た。話題になっているのは主に歌詞だと思うけれど、MVについても気になったことがあったので、歌詞と映像両方についていちオタクが感じたことを書いてみる。ちなみに私はモー娘。からはじまり今はNMB48をメインに推しているオタクだ。

そもそも、アイドル(idol)とは英語で「偶像」という意味の単語。ギリシャ語から派生した言葉で、基になったギリシャ語の「エイドーロン」という言葉の意味は「実体のない形」だそう。つまり、アイドルとは実体のない、私たちの理想が作り上げた偶像である。これは私の意見だけれど、アイドルはまさに「偶像」であり、信奉者ともいえる私たちファンの理想であり続ける存在でいてほしいと思っている。そこに現実味はいらない。美しく、気高く、輝いていてほしい。

 

=LOVE 『絶対アイドル辞めないで』

youtu.be

映像について

全体を通して「美しく完璧でいつづけるアイドル」を表現していると感じた。以下、気になった表現についてまとめる。

  • CGを使って作り上げられた背景。美しい世界で踊る完璧な=LOVEのメンバーたち。いつまでもidol(偶像)としていつづけてくれるアイドルの完全性を象徴しているのではないか。
  • 作中でメインの背景となっている藤は「不老不死」の象徴であり、美しいまま有り続けることを求められるアイドルと親和性が高い。また、紫色の藤の花言葉は「君の愛に酔う」。これはファンから向けられる愛に酔うアイドルのことを表しているのか。
  • 最後のシーンが制服のような真っ白な衣装で決めポーズを取っているところ。「何にも染まらない純粋な、アイドルデビューした頃からいつまでも変わらない姿」を連想させる。

 

歌詞について

話題の歌詞について。この歌詞を元アイドルの指原莉乃さんが書いているということがまた深いな…と思う。いつかはアイドルを辞める時がくる。それがわかっている元トップアイドルが現役アイドルに向けて書いた歌詞。これは呪いでもあり、祈りでもあり、オタクの気持ちの代弁でもあり。特にわかるな〜!と思った箇所について語っていく。

『好きな人がいるのなら 内緒にして』

推しに好きな人がいてもいい。恋愛もしてくれて構わない。でも、アイドルは偶像であってファンタジーな存在だから、一般人が抱く感情(恋愛感情)のようなものを感じさせないでほしい。私たちオタクと同じ、”人間”になろうとしないでほしい。これはエゴだとわかっているので本人には言わないけどね。

 『絶対空で輝いて 星は街じゃ輝かないの』

「会いに行けるアイドル」を標榜している48のオタクをしていてなんだが、自分は推しに認知されたくないオタク。推しと接触したくないオタク。私と推しの人生は交わることはなく、どこまでもお互いに一方的な世界であってほしい。きみはステージで輝いて、私は客席でペンライトを振る。視線が交わったように感じるのはきっと気のせい。私ときみはどこまでも違う世界に住む存在だ。私が望むアイドルとオタクの関係はそんな感じ。こちら側には降りてこないで、ずっと星でいてほしい。

『ただのエゴとわかってても 君はキラキラ衣装が似合う!』

アイドルを卒業して人間になったメンバーに何度も感じたことがある感情。他の夢をみつけた君を応援したいけど、でもやっぱり、アイドルの君に恋をしたから、ずっとキラキラでいてほしい。他の場所で歌ったり踊ったりしている姿を見ても、やっぱり私が感じたきらめきと同じだけのキラキラはそこにはない。いつまでも推しがキラキラ衣装を着てくれますように。これは呪いでもある。ごめんね。

『絶対アイドル辞めないで これは報われないおとぎ話 恋よりももっと好きだ 魔法やどうか 解けないままで』

idol(偶像)って神の偶像をあらわす単語でもあるし、オタクの推しへの気持ちはもはや宗教に近いと感じている。推しがいてくれることでつらいことを乗り越えられるし、毎日の活力が湧くし、心の拠り所になる。この歌詞の「アイドル辞めないで」は推しに伝えたい言葉ではなく、オタクの勝手な祈りである。でも、いつかあなたが神を辞めるときがきて人間に戻ったら、そのときはもう少し近いこころの距離で迎えたい。それからは人生を応援させてね。勝手な思いでごめん。

 

私にとってアイドルとは

そもそも私にとってアイドルって、何?ということを整理したい。

私がアイドルを好きになるきっかけは、やっぱりステージでの輝きがいちばん大きい。ステージに立っている最中のパフォーマンス力に惹かれる。歌声、ダンス、MCやコメントで紡がれる言葉、パフォーマンス中の表情、全身から発されるエネルギー。そこにきらめきを感じて、星の輝きに目が眩んで、でも目を離せなくなるのが推しへの入口。先述したが私はアイドルにはファンタジーな存在でいてほしいタイプのオタクなので、本当はリアルな人柄をあんまり知りたくなくておしゃべり配信などは意識的にあまり見ないようにしている。ステージ上での姿がすべて。

私にとってアイドルとはまさに偶像であり、一度その煌めきに目が眩んでしまうともう離れられない。好きになろうと思ってなるものではなく、どうしようもなく目で追ってしまう、気づいたらハマっている存在。ステージに立つまでの厳しいレッスンやつらいあれこれを乗り越えて、ステージに立っている間は愛だけを爆発させて夢を見させてくれる存在。

今日も私は、「絶対アイドル辞めないで」と「ひとりの人間に戻ってきてもいいんだよ」の間で勝手に悩み続けるオタクとして生きている。